2015年5月18日月曜日

大阪都構想の賛否を問う住民投票の結果はまさにドラマチック

大阪都構想に賛成でもなければ反対でもなく、格別関心があるわけではないが、テレビで住民投票の開票速報をしていたので何とはなしに見ていたら、賛成票と反対票が作ったように拮抗していて面白かった。開票率が80%を超えた頃だろうか、その段階でも賛成票が上回っていたが、反対票が上回ることが確実と報じられた。

最終的には、反対が70万5,585票、賛成が69万4,844票と、反対が多数となって大阪都構想は否決されることになった。大阪市選挙管理委員会は、今回の住民投票のルールを次のように説明していた。

今回の住民投票は投票者数にかかわらず成立し、賛成の票数が有効投票(賛成票と反対票を合計した総数)の半数を超える場合は、特別区設置協定書に基づき大阪市が廃止され、特別区が設置されます。反対の票数が有効投票の半数以上の場合は、特別区は設置されません。<ご注意>実際に投票された有効投票数以外は賛否の決定に影響しません。
 
大阪都構想の是非を問う住民投票と一般に言われてきたが、正確には「大阪市における特別区設置についての住民投票」と言うようで、大阪市選挙管理委員会のウェブサイトには、「特別区設置住民投票」という言葉はあるが、大阪都構想という言葉はひとこともない。

今回の住民投票のルールは多数決ではあるが、大阪市選挙管理委員会の説明にもあるように、投票者数にかかわらず成立し」ということであるから、投票者数や賛否の差がどれくらいかは問題にならない。極端なことを言えば、3人が投票して2人が賛成あるいは反対すれば決着する。そして、1票差だろうと100万票差だろうと関係ない。とはいうものの、有権者数が少ない村の村会議員選挙で数票の差で当落が決まるのは別に驚きでもないが、今回の票差には本当にビックリした。

住民投票の当日有権者数が210万4,076人で投票率が66.83%ということだから、140万6,154人が投票したことになる。賛成票と反対票の合計より多いが、無効票が5,640票あったからだ。それだけ多くの人が投票して、たった1万741票の差しかなかったというのは、まさにドラマチックである。名作を手がける脚本家でも、ここまでは描けないだろう。かえって嘘くさくなってしまうからだ。そういうことでは、ドラマ以上にドラマチックと言えるかもしれない。そう考えると、橋下大阪市長は、アカデミー賞の各部門賞を総なめするほどの類い希なる脚本家かつ役者であったと言えるかもしれない。

大阪都構想が住民投票で否決されたので橋下市長は任期が切れたら政治家を辞めると明言したということだが、あまりにもドラマチックなきわどい結果が何をもたらすことになるか注目したい。彼は辞めてもなおエンターテイナーであり続けることだろう。

ところで、反対票の70万5,585票と賛成票の69万4,844票をそれぞれ投票数全体の割合にすると、反対票は全体の50.383489630677456693627452730556%で、賛成票は全体の49.616510369322543306372547269444%である(これだけ多くの小数点以下の数字を並べるのは全くの遊びでしかないのであしからず)。その差は、なんと、0.766979261354905%ポイントにしかすぎない。多数決とはいえ、割合から言えば、無視できるほどの差しかない。

ブリタニカ国際大百科事典によれば、多数決原理とは、「集団でものを決めるときの決定ルールの一つで構成員の過半数の意見を集団の意思とする方法である」。この説明で肝心なところは、「構成員の過半数」と言う場合の「構成員」をどうとらえるかということである。

今回の住民投票に当てはめれば、「構成員」を20歳以上の大阪市民とすると、「構成員の過半数」は有権者210万4,076人の過半数だから105万2,039人となる。住民投票の結果は、賛成も反対も、その数には達していない。それでも、投票率は66.83%と比較的高かったから、まあ、有効投票数の過半数でも「構成員」全体を代表していると見なしてもよいだろうが、仮に有権者が一人残らず投票したとすると、どんな結果になっていただろう。

そこで、試しに計算してみた。こういう場合は、標本抽出の原理を応用することになる。

標本抽出(サンプリング)は、ある全体(これを母集団という)の中から標本(サンプル)を幾つか選んで、それらを調べることによって母集団全体のことを知ろうとするときに行われる。製品検査や世論調査で行われる手法であるが、大事なことは標本が無作為(ランダム)に選ばれていることである。

無作為と言っても、適当デタラメに選ぶことではなく、どの標本も選ばれる確率が等しくなるように選ぶ。要するにくじ引きである。歳末大売り出しの時なんかに見られるガラガラ回して当たり玉が出る抽選機での福引きや宝くじの抽選と同じである。当たる確率が誰にでも同じだと思うから福引きをし、宝くじを買うのである。当たる確率が等しくなかったり操作して偏りがあれば、それは如何様(イカサマ)であるから、誰も福引きをしたり宝くじを買ったりしなくなる。実験や調査で標本抽出する場合でも同じことが言える。

住民投票の場合は、世論調査で回答の対象者となった場合と同じように、投票をした人を抽選で当たった人と考えればよい。そうした人が無作為で選ばれたと言うことはできないので厳密性に欠けるが、210万4,076人の内の66.83%に当たる140万6,154人もの人が投票したので、標本数が多くなれば誤差は小さくなるということを頼りに先に進むことにしよう。

比率の誤差の推計と区間推定は次のような式で計算できる。


p は標本から得られた結果で、ここでは賛成50.38%や反対49.62%。ただし、式に入れるときには、0.5038や0.4962のようにする。
k は信頼係数と呼ばれるもので、5%とか1%、0.1%の誤差を見込むときには、それぞれ1.96や2.58、3.29にする。
は母集団の規模で、ここでは有権者総数の210万4,076。
は標本数で、ここでは有効投票数の140万429。
は真の値。要するに、有権者210万4,076人が全員投票(投票率100%)したと仮定した場合の賛成や反対の割合。

上の式に、推計の誤差を5%として反対の割合について数値を代入した場合には以下のようになる。
 
計算すると以下のようになった。
0.503358937138526  < < 0.504310855475022
同様にして、推計の誤差を1%(k を2.56)、0.1%(k を3.29)とした場合の結果は、それぞれ以下のようになった。
0.503208378626121 <  < 0.504461413987427
0.503035964845786 <  < 0.504633827767762
 
いずれの場合でも、50%を超える結果になった。賛成票についても同様に計算してみたが、50%を超えることはなかった。要するに、有権者が一人残らず投票していたとしても(投票率100%だったとしても)、反対票は、50%を(わずかではあるが)超えていただろう、ということである。ただし、投票率や賛成票と反対票の割合に世代差(年齢別の違い)が大きいとすれば、以上の推計結果が妥当かどうかは判断できない。そのことを検討するためには、選挙管理委員会がそれらの詳細なデータを公表することである。
 
橋下市長は、退任する前に、ぜひ、そのことを行い、住民投票の結果と意義を総括すべきであろう。おそらく、住民投票の実施のために莫大な費用を市の財源から支出したであろうから、反対されましたから潔く政治家を辞めます、などと子どもじみたパフォーマンスでお仕舞いにするのではなく、その支出を無駄にしないために、日頃の言動通りに政治家としての責任を全うしなくてはならないだろう。