2014年12月19日金曜日

STAP騒動の茶番が一段落した

理研がSTAP細胞を再現できなかったと報告した。小保方晴子嬢は退職届を出して受理されたそうだ。ふつうの感覚では、退職届を受理せずに懲戒解雇とすべき事案ではないだろうか。とても不思議で理解に苦しむ。

ともあれ、これで、一連の茶番劇が一段落したことになる。本人から退職届が出るのを待つために、死者を出してまであれやこれやの大がかりな茶番を仕組んできたとしか言いようがない。そうした茶番をよってたかって仕組み、加勢してきた連中は、どう責任を取るつもりなのだろうか。

小保方嬢本人は、相変わらず尋常ではないコメントを出している(以下全文)。

どのような状況下であっても必ず十分な結果をと思い必死に過ごした3カ月でした。予想をはるかに超えた制約の中での作業となり、細かな条件を検討できなかったことなどが悔やまれますが、与えられた環境の中では魂の限界まで取り組み、今はただ疲れ切り、このような結果に留まってしまったことに大変困惑しております。
 私の未熟さゆえに論文発表・撤回に際し、理化学研究所をはじめ多くの皆様にご迷惑をおかけしてしまったことの責任を痛感しておりおわびの言葉もありません。検証終了をもって退職願を提出させていただきました。最後になりますが本検証実験にあたり検証チームの皆さまはじめ、ご支援・応援してくださった方々に心より御礼申し上げます。 2014年12月19日 小保方晴子

不正行為を働いた反省や虚言の背景については何も言っていない。不正の責任を取るのではなく、迷惑をかけたことについて詫びることは、浅田次郎が『マンチュリアン・リポート』で描いた関東軍の幹部と同じ行為である。犯したことに対して責任をとるのではなく、それを犯したことで誰それに迷惑をかけたことを詫びることによって自分の責任を棚上げにするという小賢しいというか陰湿な行為である。そして、そのことを許す面々には呆れてものが言えない。こんなコメントを出すほうも出させる方も尋常ではない。

STAP騒動に自らが何の関わりももたないかのような無責任きわまりない野依理事長の「退職願の承認に際してのコメント」にも唖然とする。全くの他人事として処理できてホッとした顔が浮かんでくる。

剽窃、捏造、法螺話、奇行のオンパレード。本人と、それを許してきた面々は、科学の名を借りて虚構の世界に人々を引きずり込み、巨費を浪費した。不正を不正と認めようとせず、処分もできずに、ひたすら退職届が出ることを待っていた背景には何があるのか。「事実は小説よりも奇なり」を地でいくような今回のSTAP騒動。

ごくごく単純で、誰の目にも明らかな不正行為でも、寄って集(たか)って、あの手この手で隠匿、隠滅しようとすればできないことはない、と考えた意地汚いれ連中がけっこうな数いたということで、その連中はなにがしかの地位にいて、そうすることが自分たちの利益を守る/増やすことができると考えたのだろう。冤罪の逆バージョンとも言える。

性懲りもなくダラダラと時間をかけて自分の金ではないから巨費を浪費しても痛くもかゆくもないし、「赤信号みんなで渡れば怖くない」と、自分(たち)が犯している不誠実に気を向けることなく、科学の名で押してゆけば欺けるだろう高を括っていたのだろう。

努力や一生懸命にやることとは、それがまっとうなことであってこそ賞賛されるのであって、不正行為に努力をし、一生懸命になることは非難されこそすれ、許されることではない。そして、不正行為を許すかのように、それを隠匿、隠滅し、言い訳する連中には一層の責任があると言わなければならない。

2014年12月5日金曜日

糸谷くんが竜王位を奪取した

昨日、糸谷哲郎(いとだに てつろう)七段(26歳)が森内竜王に挑戦していた第27期竜王戦で、4勝1敗という好成績で竜王位を奪取した。タイトル初挑戦での偉業である。彼が在籍している大阪大学では、その快挙をトップページに祝辞とともに写真入りで紹介している。阪大もなかなかやるものだと感心する。このトップページはすぐに変更されるだろうから、コピーして以下に掲げておく。とくに文句は言われないだろう。


画面の「詳しくはこちら」をクリックすると、号外や彼のプロフィール、総長の喜びのコメントも掲載されている。こちらのページはなくなることはないだろう。

この1勝で竜王位を獲得ということで、風邪で体調を崩していた私だが、コタツに入ってパソコンで中継を見ていた。最終盤まで森内竜王優勢の解説だったが、辛抱に辛抱を重ねて最後まで受けに徹して、まさに最後の最後で詰めの手筋を放った。

挑戦者決定戦で羽生名人を2勝1敗で退け、森内竜王を破り、将棋界最高の優勝賞金4,200万円を獲得した(ちなみに敗者の森内の賞金は1,550万円)。竜王戦3組で優勝して賞金250万円を獲得し、決勝トーナメントでは竜王位挑戦までに、75万円、115万円、160万円、440万円の計790万円の対局料を手にしているから、今季の竜王戦で5,240万円を獲得したことになる。昨年度の賞金・対局料が1,035円で20位の成績だったから、今季は竜王戦だけで昨年度の5倍を稼ぎ出したことになる。立派と言うほかはない。

将棋の優勝賞金額が他の競技に比べて大きいか小さいかは難しい問題だが、将棋の他のタイトル戦の多くが賞金額を公表していない中で、読売新聞社が主催する竜王戦は将棋界最高という優勝賞金額を公表して昭和62(1987)年に設立された。将棋のスポンサーと言えば朝日新聞社と毎日新聞社という時代が長く続いていた中で、それを打ち破るには他の追随を許さない賞金額のタイトルであることを大々的に宣伝する必要があったのだろう。そして、それは成功した。

今期の竜王戦で糸谷七段は羽生名人を退けて挑戦権を獲得し、名人8期や竜王2期を含むタイトル12期の鉄板流・森内竜王から竜王位を奪取した。竜王位は後発のタイトルでありながらも、それまでは伝統的に将棋界最高のタイトルとされてきた名人位を名実ともに凌駕することになったと言えるだろう。

糸谷新竜王は、竜王位挑戦権を得た9月8日に六段から七段に昇段し、竜王位を奪取したことにより12月4日に八段に昇段した。とても効率のよいスピード昇段であり、現役八段18人の中では最も若い棋士である。

現在の将棋界の二枚看板である羽生と森内を立て続けに破っての竜王位奪取であるので、まさに快挙である。しかも、高校3年生で四段になってプロデビューし、現役棋士として現役で大阪大学に合格し、現在は休学中とはいえ、現役の大学院生でハイデッカーを研究しているという、まさに異色の棋士である。

私は早くから彼に注目していたが、記憶に残っていることは、超早指しであることを故米長邦雄会長からたしなめられたことや、ひとから苗字を「いとたに」と読まれると「いとだに」だから間違わないで欲しいと言ったこと、奨励会在籍中にもたくさんの哲学書を読んでいたことなどである。

ハワイで開催された今季竜王戦第一局に際しての糸谷七段の挨拶には面目躍如たるものがあった。感心し、また、とても面白かったので、以下に紹介しておく。

「皆さんアローハ。私はあいさつに入ると、長くて分かりにくいと言われるので手短にしたいと思います。昨日、領事館にうかがわせていただきました。そこで一つ啓示的な話をいただきました。母の実家が鎌倉でして、鎌倉とハワイはある共通点という話をいただきました。話を縮めますと、日本とハワイは精霊信仰、シャーマニズムという点において共通しています。父方が宮島が実家でして、宗教と縁があるのですが、一神教とシャーマニズムの違いとして、観客に語りかけるか、神に交信するかという話をいただきました。私は中高をカトリック系の学校にいましたが、ミサなどにおいて神父は聴衆に話しかけますが、ハワイや鎌倉に行こうというのは神そのものに話しかける。一種の交信儀式を行うわけです。これは将棋と近しいのではないかと。将棋は哲学では神、世界、真理、存在とある程度同一視される、というと怒られるかもしれませんが。一つの世界そのものが神の代わりである。ニーチェは『神は死んだ』と申しましたが、そういった意味での存在、真理、ただ一つのくつがえしがたいものを神などと隠喩する風習があります。そういう点で将棋はある程度真理を目指す、神の存在ですね。神のメタファーになると思いますが、どこか真理を目指しながら、しかし、神にたどり着かない。ただ、対局者同士は神を目指すという行為ですね。シャーマンも神にたどり着くという行為自体はなしえないわけです。交信することにおきまして、ただ、それを目指す。というわけで、真理=神に近づけますように将棋を指していきたいと思います」

かつては将棋に邁進して学業は中学や高校までという棋士が多かった。それだけ厳しい世界であるからだ。プロ棋士として認められるのは四段からで、それまでは奨励会という6級から三段までが所属する組織で昇級・昇段をかけて戦う。

三段になると三段だけでのリーグ戦を半年単位で行う。そして、各期上位二名が四段に昇段し、プロ棋士になる。年に4人しかプロ棋士になれないということだ。しかも、年齢制限があって、満23歳(2003年度奨励会試験合格者より満21歳)の誕生日までに初段、満26歳の誕生日を含むリーグ終了までに四段になれなかった場合は退会になる。ただし、最後にあたる三段リーグで勝ち越しすると、次回のリーグに参加することができるが、それを繰り返しても満29歳のリーグ終了時で四段になれない場合は退会 となる。棋力はもちろんだが、厳しい戦いを長く続けることができる気力や体力も想像を絶するほど必要になる。尋常な世界ではない、と言うこともできるかもしれない。

「兄貴たちは頭が悪かったから東大に行った」というのは故米長邦雄会長がかつて語った言葉として有名だが、将棋の世界の厳しさを言い得て妙だと思う。近年では、奨励会時代に東京大学に合格し、在学中に四段になってプロ棋士になり、その後法学部を卒業した片上大輔六段(33歳)のような大卒棋士も増えてきた。

文武両道という言葉があるが、将棋と学業の両立と言うことでは、文文両道というべきか。糸谷哲郎くんが竜王位を奪取し、大阪大学が大学のウェブサイトのトップページに快挙を称える写真と記事を掲載し、号外を出し、総長の喜びのコメントを出したことから、世のトンチンカンな親は子どもに将棋をやらせ、何か面白い大学改革策はないかと目先のことばかりに執心している文部科学省は、推薦入試の目玉として奨励会員や若い棋士の入学勧誘の手立てを早速講じるように各大学に指令を出すことになるかもしれない。そのどちらも悪いことではないと思うが、単なる流行(はやり)に終わらせてもらいたくないとも思う。大阪大学は、糸谷くんが博士号を取れるように色々算段することになるかもしれないが、糸谷くんには是非とも実力で博士号を取ってもらいたいとも思う。そして、羽生ファンの私としては複雑な心境だが、何よりも竜王位を何回も防衛してもらいたいものだ。