2015年2月25日水曜日

売値と利益-安いか高いか儲かるか

寒さも和らぎつつあり穏やかな日和であったので、老妻とデートとしゃれ込んでみた。退職後に三食昼寝付きの養老院よろしく在宅介護をされているような毎日を楽しんでいる私が妻にできることは、日頃のお世話に対するせめてもの労(ねぎら)いとたまに昼食を外でご馳走することくらいだ。

と言いながらも、車の運転は妻まかせで、ゆったりと助手席でタバコを燻(くゆ)らしているのだから、労を犒(ねぎら)うどころか、連れて行ってもらう世話をかけているようなものだ。

昼食は海鮮市場でとることにした。少し離れた公営駐車場に入れて歩くことにした。市場に着くと、どの店で何を食べようかと店先に貼り出されたメニューやら宣伝文句を見ながらブラブラ歩いていると、「ランチメニュー にぎり8個 赤だし付き 800円」、「海鮮ちらし 1,000円 赤だし付き」というのが目についた。おお、これなら手頃でいいと、カウンターだけの小さな寿司屋に入った。

静かな店で、中年夫婦らしき一組がいただけだ。端に座ろうとしたら、「詰めて下さい」というので、その夫婦の隣に座ることになった。入ったばかりらしく、まだ、カウンターにはお茶しか出ていない。

小柄な年配の男性が一人、カウンター内で寿司を握っている。ふつうはカウンター前にあるガラスケースがなくて、ネタが見えない。目の高さまでしきりがあって、立って覗かないとカウンター内も見えない。おかしな寿司屋だ、と一瞬、気味悪くなったが、出てきた寿司は値段の割には悪くなかった。ゲソのにぎりが美味くて、追加注文してしまった。一皿に2個で200円。回転寿司より廉価ではないだろうか。妻が食べた海鮮ちらしもボリュームたっぷりだった。

 満腹のおなかを抱えて、例によって食後のコーヒーをと喫茶店を探す。「サイフォンで淹(い)れたてのコーヒーを」という看板につられてドアを開け、「タバコ吸えますか」と聞くと、もちろん、という顔で「吸えますよ」と年配の女性が言う。テーブル席2つと4人ほどが座れるカウンターの小さな店で、夫婦でやっているようだ。食事のメニューも色々あり、弁当の仕出しもやっているようで、カウンターには美味そうな弁当が詰まれていた。夜はスナック・バーになるようだ。熱々のコーヒーとタバコをひとしきり楽しんだ。コーヒーは1杯400円だった。

市場内をブラブラと見て回る。店先の売り台に幾つも並べられたトレイの中でたくさんの小ぶりの鰈(かれい)が飛び跳ねてひっくり返ったのを威勢のいい女性店員がサッとつかんで元通りにひっくり返したり、子蛸(こたこ)がトレイから這い出しているのを元に戻したする様を見ていると、「おすすめはこれだよ」と鰈と同様に幾つものトレイに並べられて赤い魚を指さした。「ガシラだよ、煮付けでも唐揚げでもおいしいよ」とのこと。つい調子に乗って、というのは妻の弁だが、「では、この3尾のを」と買ってしまった。1,500円。

長崎県水産部ホームページにある「お魚図鑑」によれば、ガシラというのは、地方によってはアカバとも呼ばれるユメカサゴのことである。学名はHelicolenus hilgendorfiで、英名はHilgendorf saucordというそうだ。なんだか難しい。

特徴として次のようなことが記されている。水深100~300mの砂泥底に生息している。体は楕円形で平たい。胸びれの内側に基部付近に大きい皮弁がある。甲殻類や魚類を食べる。底引き網で漁獲され、味はよく煮付けにするとおいしい。分布:青森県以南、東シナ海、朝鮮半島南部。大きさ:30cm。漁法:底曳網。食べ方:煮付け。
長崎県水産部ホームページの「お魚図鑑」より転載
お馴染みのカサゴと同様に、脊椎動物門-硬骨魚綱-カサゴ目-フサカサゴ科だが、カサゴの学名はSebastiscus marmoratusで、英名はJapanese stingfishだそうだ。おお、ジャパニーズ・スティングフィッシュと日本固有の魚のような呼び方ではないか。

スティングは日本語では棘(とげ)のことだから、さしずめ「日本の棘魚」ということになろうか。体中が棘だらけのような魚だから、英語圏では、そう言うのかもしれない。まあ、英語の名詞には、わかりやすさを旨とするのか、見たまんま、そのまんまというのが多いから、これもその類なのだろう。sting hair(スティング・ヘア)というと、イラクサなどの棘のことで、日本語では刺毛(しもう)とか棘毛(きょくもう)と言う。

ついでに言うと、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが共演した映画に「スティング」(1973年)というのがあった。詐欺師を描いたコメディタッチの名作だが、そこで言うスティングは信用詐欺のことである。英和辞典によれば、スティングには計画的犯行とかおとり捜査、犯罪で得た金、盗品などの意味もあるとのことだ。いずれも俗語(スラング)として使われる場合だ。その伝でいけば、ジャパニーズ・スティングフィッシュことカサゴは、「日本詐欺魚」になってしまう。カサゴもビックリというか、迷惑顔をしていることだろう。

ともあれ、妻の労いになったかどうかわからないが、駐車場へと歩く。駐車料金は500円。20分100円だから、100分過ぎたことになる。

魚の煮付けが好きで、妻も料理上手なので、これで今日の夕食をと、いい買い物をしたと満悦至極であったのだが、後で妻に叱られた。高い買い物だということである。煮付けで食べてみたが、見てくれほどには身が多くなくて、あまり美味い魚ではなかった。残念至極というところだ。

さて、本題である(例によって前置きやら周辺の話題が多すぎる)。

コーヒー一杯400円と、にぎり寿司8個赤だし付き800円とを比較すると、どちらの利益が多いのだろう。素人目には、材料費や手間暇を考えるとコーヒーの方が断然利益率が高いように思えるが、売れる数はどちらの方が多いのだろう。利益率✕販売数で儲けは決まるから、薄利多売という言葉もあるように、商品一つの利益率は小さくても数多く売れれば利益は大きい。でも、買う側は、その商品一つの価格の印象が強いから、あの寿司屋は、あれでやっていけるのだろうかと心配になる。

ガシラはどうだろう。大量の鮮魚が店に並んでいる。全部売り切れるのだろうかと心配になる。海から獲ってきて店に並べるだけだから、元手(もとで)はあまりかかっていないか、とも思うが、タダで拾ってくるわけではなくて大量の燃料を使って朝早くから漁に出るのだから軽費はかなりかかっている。3尾1,500円で利益がどれくらいあるのか興味あるところである。

駐車料金はどうだ。車を置かせているだけで(だけでと言っていいかわからないが)金を取るのだから、こんなにおいしい商売はない、と思う。もっとも、駐車場用の土地とビルの建設費はバカにならないから、元手はかかっている。

バングラデシュに滞在していたときに、リキシャと呼ばれている人力車をよく利用した。歩けば30分ほどかかるところを、当時は、日本円にして何十円かで利用できた。3人乗っても、大して変わらない料金だった。まあ、交渉次第での料金だから、距離や時間に料金が対応しているわけでもない。かなりの年配のやせ細った運転手がリンギと呼ばれる腰巻きをたくし上げて裸足で自転車をこぐ。バングラデシュの友人は、距離あたりの料金で言えば飛行機代より高い、と笑っていた。

売値と利益。安いか高いか儲かるか、と考えると、物の値段の付け方は難しいと思う。もっとも、売値は、原価や諸経費だけをもとにして決められるわけではない。買い手の必要や満足が作用するところが大きい。市場経済における需要と供給の原理である。利益率が高い商品の値段は、買い手の必要と満足に左右されるところが大きい。そこでしか買えないもの/そこでしか売っていないものは、それを欲しい人にとっては高額でも買うしかないことになる。見栄っ張りや気取りっちゃんは、同じ商品でも、有名ブランド品を有名店で高値で買うことで満足を得る。

消費者の商品知識などは高が知れているので、物の価値を判断して買い物をしているわけではない。欲求が満たされることに価値を置いて買い物をしているに過ぎない。偽ブランドが蔓延したり有名店が商品の偽装したりする余地もそこにある。芸術作品が高値で取引されるのも、幾分かは、同じ理屈であると言えるかもしれない。

適正価格がどういうものかよくわからないが、「こんな値段で儲かるのか」と心配させるような価格のことだろうと勝手に思っている。売り手にとっては厳しいことかもしれないが、それで商売が続けられているのなら、適正価格なんだろうと思う。そういうことで言うなら、儲けが大きい=利益率が高い商品は、みな不適正価格で販売されていることになるが、経済活動のほとんどは不適正価格で展開されていると言っていいのかもしれない。その典型が、バブル経済の崩壊となって現れる。

インフレも、言ってみれば、商品の多くが不適正価格になることである。だから、インフレ政策を成功させる一番の早道は、消費者の商品知識を曇らせて、適正価格はどれほどか、などということを頭にのぼらせないで、ひたすら欲求を満たすことに価値を置くように仕向けることなのかもしれない。

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