2014年2月19日水曜日

ターナー展に行ってきた

 娘からチケットをプレゼントされたので、用事のついでに妻とターナー展に行ってきた。趣味というわけではないが、美術館や博物館で芸術作品や文化財などを見て回るのが好きだ。

 これまでにいろいろなところに行ったが、有名なところではルーブル美術館やオルセー美術館、大英博物館、スミソニアン博物館か。バングラデシュの国立博物館も、これぞ博物館と感動したことを覚えている。いずれも圧倒される規模で、見終わると満足する以上にグッタリと疲れてしまうのが常だ。

 北海道や上野、京都、大阪の有名な美術館、博物館、各地にある埋蔵文化財センターには機会があれば立ち寄っている。熱海のMOA美術館や伊東の池田20世紀美術館、和泉市久保惣記念美術館にも何回か行ったことがある。鳴門の大塚国際美術館には家族4人で行ったことはあるが私は入館しなかった。家族は入館したが、その間、私は鳴門公園を散策して鳴門海峡の景色を堪能していた。そのときは、技術の粋を集めた原寸大の陶板がとはいえ、本物を鑑賞できる外国の有名な美術館に比べて入館料がベラボーに高いと思ったからだ。
 
  そうそう、もうずいぶん前のことになるが、ノーマン・ロックウェル(Norman Rockwell 1894~1978)の作品展に行ったことがある。ビックリしたことを覚えている。もう、最高、っていうか、スゲッ、っていうか、震えた、っていうか、まったく俗っぽい表現になってしまうが、そんな印象を受けた。ポケット版の作品集をいまも持っているが、見るたびに、天才だな、この人は、と思う。

 教科書や何やらで目にしていたものを実際に見ると、感激したり、あれ、こんなものかとか、人間ってすごいな、と思ったりするが、私が美術館や博物館に足を運ぶのは、一つひとつの作品や文化財を鑑賞するためというよりも、そこが別世界に連れて行ってくれる場であったり、別世界で遊ばせてくれる場であるからかもしれない。

 さて、話が横道にそれてしまったが、ターナー(Joseph Mallord William Turner(1775~1851が、英国最高の巨匠というのを知らなかった。イギリスに短期間ではあるが滞在していたときにも、ターナーの作品を大量に収蔵しているテート美術館というのも知らなかった。

 紙や板、カンバスとさまざまな地に描かれた水彩画と油絵の大小さまざまな作品100点以上が展示されていた。平日なのに、多くの老若男女が熱心に見入っていた。見応えがあった。そして、例によって、くたびれて、喉が渇いた。

 作品に添えられた説明の中に「水彩、グワッシュ」というのがあって、「グワッシュ」がなんだかわからなかったが、後で調べたら、ポスターカラーのような不透明水彩絵の具の一種で水溶性のアラビアゴムを媒剤とするだそうだ。そういえば、水彩画といっても、ふつうの透明水彩絵の具で描いたものとずいぶんちがう印象で、これって、水彩画?とも思った。水彩画というと、白地の画用紙に描くイメージしかなかったので、一つ勉強になった。どこかで、「グワッシュ」を目にしていたかもしれないが、記憶になかった。これまでの絵画鑑賞の態度が好い加減だったからだろうが、ターナーの水彩画がそれだけ印象深かったからかもしれない。

 印象深い作品だったが、気がついたというか興味を持ったことが3点ある。鑑賞の印象とか美術評論とは遠いことだが。

 第1には、ターナーの作品には、絵画の右下なんかに書かれている作者の署名がどの作品にもないことである。これまで見た絵画の中には署名が入っているものが多く、へんてこな署名がかえって目障りと思ったこともあるから、気がついたのかもしれない。でも、フェルメールやゴッホの作品にも、モナリザにも署名はなかったようだから、ターナーだけのことではないということか。この辺のところが美術鑑賞を取りたてて趣味にしているわけではない物好きの早合点というところかもしれない。小品にはコレクションの番号が小っちゃく刻印されていた。

 第2には、大作の多くにみられることだが、作品の上半分に空(そら)が描かれていることだ。その空(そら)の雄大さ(変な表現か?)から、細かく描かれている人物がとても小さく感じる。望遠描写と言ってよいような構図だ。そのためか、開放感があるというか奥行き感があるというか、とてつもない大きな絵にも関わらず、圧迫感を感じさせない。空(そら)の描き方が秀逸、なんて言ったら、こら素人が、と怒られるかもしれないが、やたらに空(そら)が気になった。

 第3には、ターナーっていう画家は面白い人だな、と思ったことだ。王室に取り入るような絵を描いたりしたかと思えば、パトロンの意に反した絵を描いて援助を失ったり、戦勝をもて囃す絵ではなくて、海戦の犠牲者や悲惨さを描いて王室から依頼がなくなったりしている。風景画の巨匠として知られているが、豊かな知性をもって人間を描くことにも優れていた画家だと感じた。そういえば、先日、テレビ番組でみた大阪商船嘱託画家の大久保一郎氏が描いた戦時徴用船の悲劇的な絵にも心を打たれた。絵画がもつ記録性と画家の人間性というべきか。そんなことが、ちらっと頭をよぎった。

 見終わって外へ出ると寒風。首をすくめた。帰りの道順を間違えて、寒空の下、大回りをしてしまい、だいぶ歩くことになった。おかげで、芸術鑑賞と運動がいっぺんにできた一日であった。

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