2014年7月18日金曜日

下書きでも博士号がとれることを初めて知った

久しぶりに件の教授とおしゃべりした。前期の講義が終了して一段落ということで息抜きに遊びに来たのだ。お互い酒が弱いので、いい年の肥満高齢者なのに、コーヒーとケーキで盛り上がった。といっても、彼の独擅場(どくせんじょう)ではあったが。

コーヒーは私のお気に入りのコロンビアを念入りにサーバーに落とした。ケーキは、教授が来る途中にコンビニで買ってきたのだが、「どれにするか迷ったので」といって、3種類で6つも買ってきた。我が家にはそんなに多くの家族がいるわけではないので、「こんなにたくさん?」と言うと、「おれ、3つは食べるよ」と言ったので、手土産ではなくて、彼と私の2人分のつもりだったことがわかった。彼が甘党なのは知っているが、それにしてもケーキを3つも食べるなんて、私と年が幾つも違わないのに、凄まじいというしかない。

「いまは、お菓子とかケーキとかまんじゅうなんて言わないんだな」、というところから、彼の蘊蓄披露は始まった。「スイーツって言うんだが、そういうのをひっくるめて」。そういえば、やたらとスイーツって言うのが流行っている。

「ところがだ」といって、教授は、「甘いものをスイーツって言っているんだけんども、本当はsweetsのことだから、スウィーツって言ってほしいんだな」とのことだ。そう言えば、最初スイーツって聞いたときにはスイーツっていう甘いお菓子があるのかと思った。言われてみて、試しに『広辞苑』を引いてみると、「スイーツ【sweets】甘いもの。ケーキ・菓子など」とあった。スウィーツは言いにくいからスイーツになったんだろうけど、w を発音しないままで外来語を日本語にしたということなのか。

マレーシアに滞在していたときに、コーヒー(coffee)はマレー語ではコピ(kopi)であることを知ったが、日本語でも f を h に換えてコーヒーと言っている。その国にない/滅多に使わない発音は省略するか母国語で発音しやすいように換えるのはどこの国でも同じだ。フランス語でも単語の最初に来る h は発音しないことが多いのはよく知られている。人気ブランドのエルメス(Hermès)をヘルメスと読んでしまうと、高級感がなくなってしまいそうだ。

「スイートルームという言葉もよく聞くだろう。あれって、sweet roomと思っている人が結構いるんだな。ホテルのスイートルームというと、おしゃれで甘美漂うような新婚さん向きの部屋と思っちゃってるのがいるんだな」と教授。「新婚旅行では奮発してそれらしくスイートルームを予約しちゃいました、へへへ、なんて言った教え子がいたんだ。お・ま・え・は・バ・カ・カ、と言ってやったんだけんども、教えてやったよ」と教授。

これも『広辞苑』によれば、スイートルームは suite room の和製語で、ホテルで寝室・居間・浴室などが揃った続き部屋のことだ。スイートは sweet ではなくて suite なんだ。こちらはスイートが原語通りの読みになっているが、原語では、suite も suite もスウィート(swí:t)と発音する、というのが教授の説明だ。ということなので、スイーツは全くの日本語というわけだ。英語圏でスイーツといっても甘いお菓子も出てこなければ、スイートルームも予約できないということになる。

というようなおしゃべりの間にケーキはなくなり、コーヒーも3杯目に入ったところで、「お騒がせ女史の博士論文の調査結果には呆れたね~」と教授が切り出した。聞きたいと思っていたことなので、「そうそう、どうなん? おれのブログを見た?」と聞くと、「ああ、いいところを突いているよ」と言ってくれた。教授の大学でも、その話題で持ちきりだそうだが、無関心を装うものもいるそうだ。

「調査委員会は審査の仕組みがどうのこうのと言っていたけど、あんなことは指導や審査に当たった連中には屁でもないことなんだ」そうだ。「そんな話は前にもしただろう。博士論文の審査が時には全くいいかげんにやられることは、いま始まったことじゃないからな。そういう輩はどこの大学でもいるし、この件で無関心を装う連中は、そういう連中だな」ということだ。以下は、教授の熱弁をかいつまんで書いておく。

卒論や修論などでも、締め切りに間に合わなくて、下書きだろうがデタラメ書いてあろうが、形式だけを整えて締め切り日に提出、ということもある。その場合でも、そのことを指導者や審査に当たる人間が承知していなければ、そんなことはできないし、最終審査までに十分に完成できるという見通しがなければ、指導者は提出を許可しないのがふつうだ。だから、下書きを審査するなんてことはあり得ない。

下書きを読んで、次に完成版を読むなどと二度にわたって読むなどという面倒なことを誰もしたがらない。下書きを読むのに時間と精力を使っても、それ、下書きでしたから、大幅に書き換えました、なんてことになったら(そうなるのがふつうだが)、全くの無駄をしたことになるからだ。

今回の小保方博士論文は全くの下書きで、しかもハードカバーで製本して国会図書館の蔵書になっている。下書きを高いお金をかけて製本したということ自体が信じられないが、きっと、一冊だけではなく、複数冊製本して誰かに献本するか、所属していた研究室や大学にも残していると思う。ふつうは、少なくとも指導教員や主査にはハードカバー版を渡し、副査などへはソフトカバー版/簡易製本版を渡すから、製本された下書き博士論文は、結構な数があちこちにあるはずだ。少なくとも主査や所属していた研究室と所属大学には保管されているだろう。そうだとすれば、それを下書きなんて毛頭考えていなかったことになる。既にそれらを回収に回ったか処分したかもしれないが、そんなことをすれば、その時点で誰でも怪しいと思うだろうし、噂になる。証拠隠滅ということだ。

それとも、製本は国会図書館用に一冊だけで済ませ、誰も下書き論文を持っていないのかもしれない。証拠を残さないようにするには、そうするかもしれない。そうだとすると、今度は確信犯ということになる。しかも、指導教授や主査などが、そのことを知っていたとか、了解の下でそんなことをしたとすれば、組織ぐるみの隠蔽工作というか、関係者はみんな共同正犯ということになる。

いずれにしても、下書き論文で博士の学位を授与したというのは、前代未聞、世界初、宇宙初、空前絶後の大事件ではないだろうか。そして、それを非としないで学位剥奪に該当しないと結論づけた調査委員会も世界に希なるギネス級の愚劣集団ということになる。調査委員会の結論を真に受けて、その通りの結論を早稲田大学が出すとすれば、早稲田は世界の笑いものになるだろうし、そうしたことを許した/そうしたことに何の批判も懲罰を加えない日本私立大学協会を初め各種の大学協会や日本学術会議、文科省も同列に扱われるだろう。

下書きで博士の学位を授与するなら、早稲田は完成版には2つの学位を授与しなければなりませんね、先生、と言った院生がいる。上手いことを言うな、と感心したら、下書きかそうじゃないかがわからないような学位審査委員会や大学院って、この大学にもないんですか、と真面目なわけしり顔で聞いてきたので、院生というのはけっこう回りのことをよく見ていると、これも感心した。

不正の方法がどうのこうのと調査委員会はご託を並べていたが、そんなことを問題にする以前に、下書き論文に学位を授与したことが大問題であることを何で指摘しないのか、ということだ。まあ、調査委員会は、いかにして学位剥奪にならないようにと数か月もかけて模索し続けたんだろうから、ご託を並べなければ報告書を完成させることができなかったということだな。調査委員会じゃなくて、不正を不正としない捏造委員会ということだ。もう超有名人だから小保方晴子と呼び捨てにしてもいいだろうが、彼女は、弁護士によれば、ほっとして、ありがとうございます、と言っていたそうだ。反省もしているといってるそうだけど、口が達者な人だな。

博論審査に落ちたり、不正を行って学位が取り消されたり剥奪されると、ふつうは、その大学で学位を取ろうと考えたりしないだろうし、その大学も申請を受け付けようとはしないだろう。審査委員になってやろうなどという奇っ怪な人がいないからだ。早稲田の総長は、再審査みたいなこともあるようなことを言っているが、そんなことをすれば、それこそ早稲田大学はトンデモ大学に成り下がってしまうだろう。

以上が教授が熱く語った内容である。それにしても、下書き論文で学位を取ったとか、下書き論文なのに、それを見過ごして/わかっていて学位を授与したというのは驚愕的事件に違いない。どんな顔、どんな心境で、学位授与式に臨んだのだろうか。しめしめ、といったところであっただろうか。心苦しかったんだろうか。小保方晴子は全ての問題に決着を付け、新しい道を歩む準備をした方がいい。

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