2015年7月18日土曜日

歯科医院に床屋に温泉に-老人のある一日

もう2か月以上も歯医者に通院している。近所の歯科医院から4か月に一度の検診の案内をもらったのが4月で、歯石の除去などをしてもらった。その日の夕食中、咀嚼していると金属の異物を感じた。出してみると、長細い金属片。どうも虫歯治療の詰め物のようだ。おそらく、歯石の除去のときに詰め物の一部もひっかいたのだろう。そのために、詰め物が剥がれたのだろう。でも、舌で探ってみても、詰め物が取れたような感覚がなかったので、まっ、しばらく様子を見るか、と数日経ったら、食事中に奥歯に激痛が走った。家にあった鎮痛剤を飲んでも、さほど痛みが治まらない。

翌日、電話で事情を話して診療時間最後の所に予約を入れてもらった。大繁盛の歯科医院なので、予約していないと受け付けてもらえないからだ。

そういえば、昔、ハワイに滞在していたときに、治療せずに放っておいた虫歯が悪化して痛み出して歯茎(はぐき)もはれてきたので現地の知り合いに歯科医院の予約を頼んだところ、数週間先にならないと受診できないと言われて困ってしまったことがある。そのときには、幸いというか、ほどなくして膿が出尽くして痛みが引き、その後は、だましだまししているうちに帰国することになって日本で治療ができた。

詰め物を持って歯科医院に行って見せると、「端っこのが剥がれたようですね。まあ、たいしたことはないですが」と言って、簡単な治療をした。しかし、相変わらず痛みは続いた。1週間後の予約日に行くと、レントゲンを撮ってから、「ここが少し虫歯になっていますね」と画像を見せられたが、よくわからない。少しの虫歯にしては痛みが強い。

麻酔を打ってから、例のキュイーン、キュルキュルキュル、キッキッキッキッキ、ガリガリガリ(とは、いまはしないが、どんな擬音語で表現したらよいか難しい音だ)の音と振動(そんなに振動するわけではないが)で、痛みに弱くて、鼻で上手く息ができない私は、麻酔をしているので痛みはないはずだが、痛くないことを体が受け入れないらしくて、肘掛けをグッと握った手と治療倚子に押しつけている背中に汗をかいた。

そんな治療を続けていたが、どうも、治療している歯のもう一つ奥の歯茎が痛んでいるようだが、虫歯にも歯周病にもなっていないということだった。激痛のようなことはないが、噛むと鈍痛がまだすると訴えると、いま治療している歯の治療が終われば痛みも消えるようなことだったので、治療を続けた。

冠をかぶせてやっと治療が終わり、きょうは、いわば最終点検日だったが、まだ、治療を終えた歯のもう一つ奥の歯のところが食べ物をグッと噛むと鈍痛がする。そのことを伝えて、痛みが続くわけではなく、我慢できないこともないから、ひどくなったら治療をお願いすることにしたい旨を言うと、ひどくなると大変だし、治療も長引くと言われて、それではお願いしますということになった。

というわけで、また、麻酔を打たれて、キュイーン、キュルキュルキュル、キッキッキッキッキ、ガリガリガリ、と歯が削られて、仮詰めをした。これで、また、何週間か通院することになった。

自慢ではないが、抜けた歯は1本だけだ。始めて歯科医にかかったのは中学1年の時。上の前歯2本の歯茎近いところにちょっとした虫歯ができたようだった。たぶん、学校の検診で指摘され、歯科医院に行ったのだと思う。同級生の家だった。そのときに何かを捏(こ)ねて詰めたような塗ったような記憶があるが、それから大学性になるまで歯科医にかかったことはなかった。歯科検診でも、その前歯2本の治療跡は何もないらしくて、治療した歯と認定されたことはない。自然治癒-再石灰化-したのかもしれない。昔のことだから、歯は朝起きて磨くくらいだったし、そんなに丁寧に磨いた記憶もないから、もともと丈夫な歯だったんだろう。

抜けた1本は、下の奥歯で、大学時代に虫歯になっていたのを放っていおいて、いまでもハッキリ覚えているが、夜中の3時に激痛で耐えられなくなって、下宿のすぐ近くにあった歯学部付属病院に駆け込んだ。夜間外来があったわけではなく、勝手に入り込んだような記憶がある。若い歯科医が親切に応急措置をしてくれた。そのときに、ひどくなっている虫歯を診て、「正露丸でも詰め込んだの?」と言った。「えっ、そんなことしていませんが」というと、「こっちの人は歯が痛むと正露丸をすり込むからね。そんなことしちゃダメなんだけどね」と教えてくれた。そして、翌日あらためて正式に受診し、抜歯した次第だ。

それ以来、歯科医にはけっこうまめに通うようになったこともあって、奥歯は上も下もがっちり治療してある。それらが、年をとるにつれて、いわばガタがきているのだろう。

というわけで、きょう土曜日の午後3時半から4時半までは歯科医院の診療倚子に座っていた次第。そうそう、歯科医院にもお年寄りが多かったが、気がついたことは、老男子がけっこう洒落た靴やサンダルを履いていたことだ。私のサンダルは一応バックストラップ(バックバンド)付きなのだが、合成樹脂製の安物で、もう5年も履いている。

この歯科医院は土足で診察室に入るようになっている。治療中は診療倚子を後ろに倒されて水平仰向けになるので足下がもろに見えるようになるから、患者は履き物にも気を遣うのかもしれない。サンダル履きで行って、足のツメが伸び放題になっているのに気がついたときには気が引けたこともある。

帰ると、娘が温泉に連れて行ってやるとのこと。まあ、久しぶりに時間的余裕ができて、温泉にでも浸かりたいと思ったのだろう。もっとも、入浴回数券は私が買って持っていたものだから、連れて行ってやるも何もないのだが、車に乗せて行ってやるということのようだが、その車は私の車だから、運転だけはする、ということに過ぎない。

温泉に行く途中に床屋に寄った。髪は途轍もなく薄いのだが(世間ではハゲと言うらしい)、それなりにボサボサになっていて、暑苦しくなってきたので、ばっさり切ってもらうことにした。以前にこのブログにも書いた老人割引のある例の床屋さんだが、土曜の夕方だからか、混んでいた。

散髪倚子は10脚もあるのだが、理容師が10人いるわけではないので、「8番にどうぞ」と言われて散髪倚子に座ったが、散髪開始まで30分も座っていることになった。首から青いエプロンを掛けられているので雑誌も読めず、周りをキョロキョロと見回したり、前の大きな鏡に映る自分と睨(にら)めっこするしかない。

歯科医院の診療倚子よりは座り心地はいい、なんて思ったり、そう言えば、歯科医院でも治療中はエプロンを首に回されていたっけ、とか、リクライニングできるのも一緒だな、とか、でも、歯科医院には老人割引はなかったな、とか、今日は口中と頭の手入れの日か、とか、まったくもって、つまらないことをあれやこれや思って時間を潰した。

「どのようにしますか」と聞かれたので、「夏向きに全体を短く」と頼んだ。「バリカンを使って良いですか」と聞かれたので、「バリカンでもカンナでも」と言うと(矢でも鉄砲でもとまでは言わなかった)、にたっ、と笑ってから、まるで、ジョニー・デップ演じるシザーハンズのごとくに、バババババっと刈り終えた。それは見事なもので気持ちよかった。ものの10分ほどで終わった。この短さが私には快感だ。すっかり軽くなった頭で(中身のことではない)妻と娘が待っている間に買い物をしているスーパーへ。

さて、温泉だが、露天風呂にゆったりと浸かり、高温サウナでオールスター戦を見ながらやら汗を出し、中温サウナでは塩を全身にまぶして、これも汗を出す。小学校2年生という男の子が中温サウナに入っていて、お喋りをした。小2の子どもって、こんなにしっかりしているものかと感心した。「もう夏休み?」と聞くと、24日からだという。「夏休みか、いいね、何して遊ぶの」と聞くと、「勉強する」と言う返事。たまげた。「えらいね、どんな勉強が好き」と聞くと、「図工」とのこと。「いいね、おじさんも図工好きだったな、絵を描いたり船を作ったりしたよ」と言うとと、「風鈴を作った」と言う。「へー、ガラスで?」と聞くと、「ううん、粘土で」とのこと。老少交換の一幕である。

入浴後にその温泉で遅い夕食を摂った。とんてき定食は豚肉も御飯も盛りだくさんで、完食したのは良いが、帰宅してからも満腹感が続いて、なかなか寝られそうもない。そこで、この雑文を書きながら消化を待つことにした。食べ過ぎはいかん。自分の年をよく考えなくては、と反省した。と、まあ、そんな老人の一日であった。

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