2014年8月23日土曜日

床屋さんの老人割引

妻と買い物に出かけた折に、偶々(たまたま)車中から「ヘアーカット 大人1,500円」の看板を掲げた床屋が見えた。これも、偶々、今朝、「床屋に行った方がいいじゃないの」と言っていた妻は、すぐに看板を指さして、「行ってきたら」と言った。そこで、行き先のスーパーが近かったので、そこの駐車場に車を入れて、私は床屋へ、妻はスーパーへということになった。

床屋に入ると、中は広くて理容椅子が10台もあり、従業員も5~6人はいただろうか。すぐに、「5番へどうぞ」と声をかけられたので、見渡すと、それぞれの倚子の前にある鏡の横に大きな番号が書かれていた。座るとすぐに、「どのようにしますか」と聞かれたので、「全体に短くして、後ろは刈り上げて下さい」と頼んだ。頭頂部を中心に髪がすっかり薄くなってしまった私は、正直言って、「どのようにしますか」と尋ねられても答えようがないのだが、まさか、「床屋に来るまでもないんですがね」とは言えないので、散髪しがいがあると思われるほどに髪の毛が残っている後頭部を刈り上げてもらうことにしているのである。「全体に短くして」というのは、単なる枕詞(まくらことば)である。

ひげ剃りは料金に含まれているのだが、床屋で髭や顔を剃ってもらったり、頭を洗ってもらうのは好きではないので、それらを全部断って、散髪(カット)だけにしてもらった。

バリカンやハサミを使って手際よくサッサッと散髪していく。ものの10分もかからなかったんじゃないだろうか。大きな鏡を持ってきて頭の後ろに掲げて、「どうですか」と聞いてきた。前の大鏡に後頭部が写るわけだが、近眼で眼鏡を外しているので、ぼんやりとしか見えない。まあ、いつものことだが、眼鏡をかけてくれることもないので、「ええ、いいですね」、なんて適当に言ってしまう。すると、「では」と言って、別の人を呼んで、「ひげ剃りや顔そりはなし」と告げた。散髪する人と剃る人は別の人が行うのが、低価格床屋の方法のようだ。分業だな。おそらく、散髪技術が未熟な人や無資格者が剃ったり洗ったりするんだろう。鬢長(びんちょう)を整えたり首筋を剃ったり、耳毛カッターで耳たぶに生えている毛を除去してくれた後にドライヤーをかけながらブラシで髪を整え、最後にハサミで余分な毛をちょんちょんと切って終了。

倚子から立ち上がる際に、鏡の前の箱に入っていたビニールでカバーされた名刺大のカードを指して、「使いますか」と聞かれた。見ると赤字で「200円引き」と書かれている。老人割引カードである。即座に、「はい。60歳以上です」と答えて、それをもってレジへ足を運ぶ。1,300円に8%の消費税104円を足して、1,404円。クレジットカードが使えるというのでカード払い。何か、すごく得した気分で、年金生活者にはとてもうれしい。

気分良く店を出る。入店してから15~20分くらいじゃなかったろうか。妻に電話すると、「えっ、もう終わったの」と驚いていた。ずっとずっと昔に、アメリカ東部の小さな町でホームステイしていたとき、ホストファミリーに連れていかれた小さな理美容室で、女性の理美容師が、ハサミと櫛だけで、それこそ10分もかからずにパパッと散髪し、洗髪もひげ剃りも何もなくて完了を告げられて驚いたことがある。それまで日本ではそんな経験が無かったからだ。ホストファミリーに聞くと、それがふつうのようだった。日本では、床屋に行けば、待ち時間も含めると1~2時間かかっていたのがふつうだった。

料金は忘れてしまったが、ものすごく安いと思ったことだけは記憶している。たぶん、いまの感覚で言えば、1,000円もしなかったと思う。ひょっとしたら、500円ほどだったかもしれない。ホストファミリーは国際的な社会奉仕団体の会員だったことと、その地域には、その理美容室しかなかったから、特別安い理美容室に連れて行ってくれたわけではなく、ふだんから利用している店だった。当時でも、日本では、床屋に行けばけっこう金がかかったから、アメリカでの散髪が安くて早いことに驚いたり感心したりした。

夫婦で床屋をしている親戚がいる。ずっと以前のことだが、料金が何千円もするので、「もっと安くすれば、お客さんを大勢呼べるのに」と言ったところ、「組合で料金が決められていて、その料金でないと店を続けられない」というようなことを言っていた。いつ頃からかわからないが、あちこちで低価格床屋を目にするようになった。それ以来、通勤途上や出張先でも、目にすると入って散髪してきた。これもかなり前のことだが、東京で1,000円の表示を見て、それほど髪の毛が伸びていたわけではないが、何となくうれしくなって入ってしまったことがある。

それとは反対に、これもずっと以前のことだが、海外出張の際に、出発時刻まで大分時間があったので、成田空港内の床屋で散髪したときに、たしか4,500円だったと思うが、料金の高さにビックリしてしまったばかりではなく、えらい後悔をしたことがある。

バングラデシュやマレーシアの農村で、道ばたで営業している床屋に散髪してもらったことも何回かある。木やプラスチックの倚子に座って、前の道を横切る人や車や牛を見ながらの散髪である。これも手際よく、サッサカ、サッサカと散髪してくれる。私はしてもらったことはないが、ひげ剃りもする。ハサミやカミソリは手入れがいいのか、路上の床屋とは思えないほどの切れ味だ。もちろん、料金は超格安。散髪技術も悪くはない。気に入らなかったことは一度もない。

床屋という言葉は、いまは、あまり使わないのかもしれないが、私にとっては、理容室や理髪店、ヘアサロンなどよりもしっくりする。床屋さんとは言えるが、理容室さんや理髪店さんとは言いにくい。ましては、ヘアサロンさんでは気持ち悪い。老人割引で散髪してくれる優しいお店は床屋さんと呼ぶのが相応しいと私は思っている。

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